冷徹ドクターは懐妊令嬢に最愛を貫く
 蝶子は晴臣の目を見て、はっきりと宣言する。

「晴臣さんの、有島家からの援助は不要です。私が自分でそう伝えてきます」

 晴臣は席を立ち蝶子のもとまで歩いてくると、その背中を優しく抱き締める。

「あぁ。蝶子はもうあの家から解き放たれていい。俺と未来を歩こう」

 彼の言葉に蝶子は大きくうなずいた。

 二週間後。蝶子は観月家のリビングで、公平と紀香、七緒と向き合っていた。しっかりと彼らの目を見て、蝶子は口を開く。

「有島さんに私から援助を頼むことはできません。それを不満に思われるなら、もう私はこの家とは縁を切ります」

 公平も紀香も黙ったままじっと蝶子をにらみつける。以前の蝶子ならこの視線にひるんでしまって、声も出なくなっていただろう。だが、今の蝶子は不思議なくらいに落ち着いていた。

(私はもう大丈夫)

 蝶子は自分のハンドバッグのなかから通帳を取り出して、テーブルのうえに置く。そして、七緒を見つめて言う。

「私名義の貯金です。たいした額じゃないけど、これは七緒ちゃんに。宝石やバッグもお金になりそうなものはすべてお返しします。もちろん大学院も中退します。だから、どうか七緒ちゃんの大学だけは……」

 蝶子は公平と紀香に頭をさげる。蝶子は大学でシェイクスピアに魅了され、真琴と桃子というかけがえのない友人を得た。四年間の学生生活は蝶子の人生にとって本当に重要な時間だった。七緒にも大切にしてほしいと思う。蝶子の貯金は、七緒の残りの学費分くらいにはなるはずだ。
 
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