冷徹ドクターは懐妊令嬢に最愛を貫く
「日本にいた頃に家族で通っていた店だ」

 彼からすれば深い意味はないのかもしれないが、思い出の店に連れてきれもらえたことを蝶子は素直に喜んだ。
 メニューを開いて見せながら、彼は蝶子に問いかける。

「注文は? なにが食べたい?」
「えっと、そうですね。えっと」

 優柔不断でなにも決められない蝶子に、晴臣は大きなため息を落とす。

「コースでいいか?」

 彼の表情に浮かぶいら立ちの色を感じ取って、蝶子は焦ってこくこくとうなずいた。

「は、はい。晴臣さんにお任せで」
「苦手なものは?」
「大丈夫です」

(うぅ、私ってどうしてこうなんだろう)

 蝶子は緊張すると頭が真っ白になってしまう癖があった。そして、晴臣を前にするといつも緊張してしまうので……彼をあきれさせるばかりだ。
 彼が店員を呼んで、テキパキと注文を済ませる様子を蝶子はうっとりと眺める。鼻筋も顎のラインもシャープで、彼より美しい横顔を持つ男性を蝶子は知らない。
 注文を取り終えた男性店員がすぐに食前酒を運んでくる。ふたりは軽くグラスを合わせて、乾杯した。
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