冷徹ドクターは懐妊令嬢に最愛を貫く
 恐縮する蝶子を無視して晴臣は部屋を取って、蝶子を休ませた。通常のチェックインよりずいぶんと早い時間なのだが、このホテルの支配人は晴臣の父と懇意だそうで融通がきくようだ。

 ふかふかのクイーンサイズのベッドに横たわりながら、蝶子はちらりと晴臣の横顔を盗み見る。彼はベッドサイドに椅子を持ってきて蝶子のそばについてくれているのだが、その表情は険しい。ピリピリとした空気が蝶子にまで伝わってきて、思わず涙ぐむ。

(あぁ、失敗しちゃった。紀香さんと七緒ちゃんの言うとおりだ。こんなんじゃ、すぐに愛想をつかされる)

 彼はまだかろうじて蝶子を婚約者として扱ってくれてはいるが、晴臣が破棄したいと言えば、この関係はそれで終わりだ。そもそもの家格が有馬家のほうがずっと上なのだ。
 窓の外に視線を向けていた晴臣がふいに蝶子へと顔を向ける。彼女の目尻ににじむ涙に気がつくと、彼は指先でそれを拭った。

「ひゃっ」

 思いがけない彼の行動に、蝶子は裏返ったような声をあげてしまった。厳しい表情のまま彼は言う。

「体調は?」

 蝶子は小さく首を振る。

「いえ、もう落ち着いてきました。あの……私を気にせず晴臣さんは先に帰られてください」
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