冷徹ドクターは懐妊令嬢に最愛を貫く
 それでなくても外科医は多忙だし、実家とはいえ晴臣は転職したてのような状況なのだから。蝶子はそう主張したが、彼は蝶子の言葉を無視してじっと彼女を見つめた。
 すべてを見透かすような凄みのある彼の瞳にとらえられ、蝶子はたじろぐ。

「あ、あの、晴臣さん?」
「なぜ、アレルギーのことを言わなかった? 俺に気を使ったつもりか?」

 よく通る低い声でとがめられると、蝶子は焦ってしまって言葉が出なかった。

「あ、えっと」

 焦れば焦るほど、考えがまとまらず晴臣に答えることができない。蝶子は子どもの頃から気が小さく、自己主張が苦手だった。そんなんだから、紀香と七緒に家政婦扱いされるし、真琴たち以外に親しい友人もできない。

(晴臣さんも怒ってる)

 だが、わかっていてもこの性格をどうにかするのは難しい。蝶子の弱気は筋金入りだ。
 晴臣は肩を落とし、「はぁ」と大きく息を吐く。

「名ばかりの婚約者で、俺は君のことをなにも知らない。小さな子どもじゃないのだから、重要なことははっきり言ってもらわないと困る」

 名ばかりの婚約者、その言葉は蝶子の胸を鋭くえぐる。

「はい。ごめんなさい」
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