冷徹ドクターは懐妊令嬢に最愛を貫く
「それからな」

 晴臣はそこで言葉を止めると、蝶子を一瞥した。

「俺といるのが嫌なら、はっきりとそう言ってくれて構わない」
「え?」

 蝶子は彼の言葉をとっさに理解することができなかった。そんな蝶子を置いてきぼりして彼は続ける。

「俺は医師だからなにかあれば対応できるかと思って、そばについていたが……よく考えたら君が嫌がるのも当然の状況だった。俺は女性の心の機微を察するのが得意じゃない。できたら、今後ははっきりと言葉にしてもらえるとありがたい」

 彼はそれだけ言うと、椅子から立ちあがる。

「支払いは済ませてある。落ち着いたらタクシーを呼ぶように」

 理解の遅い蝶子もようやく状況を把握する。彼は蝶子がホテルの部屋でふたりきりという、この状況を嫌がっていると思っているのだろう。それは大きな誤解だった。

(違う。晴臣さんが心配して一緒にいてくれていることはわかっているし、嫌だったわけじゃない……)

 だが、この感情をどう言葉にしたら彼に伝わるのかわからない。蝶子は自分のポンコツな頭を心底呪った。シェイクスピア談義ならばスラスラと言葉が出てくるのに、それ以外だとどうしてこうもダメなのだろうか。
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