冷徹ドクターは懐妊令嬢に最愛を貫く
 晴臣とのデートに浮かれていたのが一番の理由だが、これも嘘ではない。蝶子の食事は自分で作るものがほとんどなので、甲殻類はそもそも買い置かないことを解決策としているのだ。
 晴臣はいぶかしげに小首をかしげる。

「君はまだ学生だったよな。友人と食事に出かけたりはしないのか?」
「お昼はお弁当を持参しますし、夜はあまり出歩かないので」

 蝶子は正直に答える。紀香の目を気にしている面もあるが、そうでなくても蝶子はあまり社交的ではない。サークル活動やら飲み会やらは苦手だった。

「今どき珍しいほどの箱入り具合だな」

 晴臣は小さくつぶやく。あきれているわけでも馬鹿にしているわけでもなく、ただ純粋に驚いているといった顔だった。
 蝶子は続ける。

「それから、私を心配して一緒にいてくれたことに感謝しています。嫌だなんて、少しも思っていません」

 晴臣はほんの少しだけ、ふっと頬をゆるめた。彼はときどきしか笑顔を見せないが、希少だからこそ見られたときの喜びは倍増する。

「わかった。だが……」

 晴臣は言葉を止めると、椅子から立ちあがり蝶子のいるベッドに片膝をついた。蝶子の腰のすぐ横に手を置き体重をのせると、彼の重みでベッドがぎしりときしむ。
< 31 / 188 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop