冷徹ドクターは懐妊令嬢に最愛を貫く
 こうして、急転直下で晴臣との同居生活が始まったのだが、蝶子が想像しているものとは少し違った。まず晴臣の暮らすマンションはとんでもなく豪華で、ゲスト専用の部屋がしっかりと完備されている。

(ひとつ屋根の下、には違いないけど……同じホテルの別の部屋って感じね)

「この部屋を私室として使ってくれ。ベッドは簡易的なものだからあまり寝心地がよくないかもしれないが」

 彼はそんなふうに言ったが、広々とした部屋はまるでホテルの一室のようで十分に快適そうだった。ダークブラウンを基調とした落ち着いた内装も蝶子好みだ。

「ありがとうございます」
「もちろんリビングやバスルームも自由に使ってくれていい。俺は不規則な仕事であまり家にいないから、そう気を使うこともないと思う」

 晴臣はひと通りの説明を終えると、少し声のトーンを落として言う。

「必要なものはすべて買いそろえるから、荷物を取りに家に戻ったりはするな。君の両親には俺から話しておくからなにも心配することはない」
「――はい」

 あっという間に二週間が過ぎた。蝶子は晴臣のマンションから研究室に通っている。公平や紀香からの連絡は一切なかった。晴臣が『今は任せてほしい』と頼んだとは聞いているが、きっと蝶子のことなどどうでもいいのだろう。

(まぁ、わかっていたことなんだけど)

 本人が言っていたとおり、晴臣は驚くほど自宅にいない。深夜に帰ってきて早朝に出ていくか、蝶子が研究室にいる昼間に一時帰宅するとか、そんな状態なので、完全にすれ違い生活だ。
< 54 / 188 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop