冷徹ドクターは懐妊令嬢に最愛を貫く
「君の部屋のベッドは簡易なものだから。一日二日ならいいが、長く使うと疲れるだろう」
「それなら、交換なんてできないです。私より晴臣さんの身体のほうがよほど大切ですから」

 彼は医師なのだ。体調管理だって大切な仕事のひとつだろう。蝶子も晴臣も互いに譲らず、無意味に時間が過ぎていく。痺れを切らしたように晴臣が両手をあげて降参のポーズを取る。

「わかった。なら、君用に新しいベッドを買おう」
「いいえ、本当に今のベッドで十分ですから」

 蝶子は固辞したが、晴臣も折れない。

「俺の家だから俺の好きにする。明日は一緒にベッドを見にいこう」

 これで終わりとばかりに、晴臣は話を切りあげた。

 翌日。宣言どおりに晴臣は蝶子を連れて家具屋を訪れた。センスのいい寝具が並ぶ売り場を歩きながら晴臣が聞く。

「気に入ったものはあったか?」

 この店は高級なことで有名なメーカーなので、どの品も当然に素晴らしく、蝶子にはとても選べない。

「どれでも、晴臣さんのお好きなもので大丈夫です。ですが、代金は自分で支払います」

 蝶子の貯金は観月家のお金であり、自分の力で稼いだものではない。だから偉そうにできるものでもないのだが……それでも晴臣に払わせるわけにはいかなかった。

「君が自己主張してくれるようになったのはうれしいが、その気遣いは無用だ」

 晴臣は苦笑して続ける。
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