冷徹ドクターは懐妊令嬢に最愛を貫く
 ゆったりとした個室に、ふたりは向かい合って座る。間接照明に照らされて浮かぶ、夜の日本庭園は風情があって悪くない。
 これだけの美貌を持つ女性としては驚くほど、蝶子はおとなしい娘だった。もっとはっきりと表現するならば、自信がなくオドオドしている。

(アメリカではとても暮らせなそうな子だな)

 晴臣は彼女をそう評した。もっとも、彼女のような女性を好む男は大勢いるだろう。男の庇護欲をそそるタイプだ。

「大学院に通っているらしいね。専攻はなにを?」

 先付けが出てきたばかりのタイミングで、いきなり本題に入るわけにもいかないだろう。
 晴臣はとりあえず時間をつぶせればと、当たり障りのない話題を彼女に振る。ところが、返ってきた反応はいい意味で晴臣の予想を裏切ってくれた。

「専攻は英文学で、とくにシェイクスピアが大好きなんです。一番好きな作品は――」

 さきほどまでのオドオドした彼女とはまるで別人のように、蝶子はシェイクスピアへの愛を語った。その内容は機知に富んでいて、英文学にさほど明るくない晴臣でも興味深く聞くことができた。なにより、キラキラと輝くその笑顔をずっと見ていたいと思わされた。
 ひとしきり語り終えたあとで、蝶子ははっとして頬を染めた。
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