冷徹ドクターは懐妊令嬢に最愛を貫く
「楽しそうですね。年を重ねても親しくできる友人がいるなんてうらやましい」

 非難めいた目を向けていた晴臣とは対照的に、蝶子は優しく目を細める。自分の器の小ささを思い知らされたようで、晴臣は少し恥ずかしくなる。蝶子のおかげで、晴臣も騒がしい彼女たちに少し寛大な心を持てた。

(まぁ、妙にかしこまった空気になるより、よかったかもしれないな)

 結婚でも婚約破棄でも、どちらでも構わない。そう思っていたはずなのに、晴臣は今、たしかに緊張を感じていた。まるで愛しい恋人にプロポーズをするかのように。

「――俺と結婚する気はあるか?」

 ややかすれた声で晴臣は言った。言ってしまってから、もう少し気の利いた言葉はなかったものかと後悔した。シェイクスピアをこよなく愛する女性に贈る言葉ではなかっただろう。
 あいかわらず、向かいのマダムたちは賑やかだ。だが、こちらの会話の妨げになるほどの音量ではない。
 蝶子の反応は鈍かった。不自然なほど空いた間に、晴臣は『聞こえなかったのか?』と思い、彼女にそう尋ねようとした。だが、困ったようにほほ笑む彼女を見て、開きかけていた口を閉ざす。

(そうだった、日本には空気を読むという文化があるんだったな)
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