冷徹ドクターは懐妊令嬢に最愛を貫く
 まるで彼女そのもののように、穢れなき純白のシーツの上に蝶子の華奢な身体を組み敷いた。豊かな黒髪がふわりと広がり、甘い匂いが晴臣を惑わせる。
 暴力的なまでに湧きあがってくる自身の欲望に、晴臣は恐怖を感じ、おののいた。

(こんな感情は知らない――)

 今の晴臣は飢えた獣も同然だ。知性も理性もなく、まっさらな蝶子を自身の色に染めたいという本能的な欲にあらがうことができずにいる。
 こんなに急ぐつもりはなかったのだ。もっと時間をかけて彼女の気持ちを確かめてから、そう思っていたはずなのに。晴臣にとって、蝶子は魔性の女だった。こちらの庇護欲をくすぐったかと思えば、はっとするような知性と強さを見せる。無垢な少女かと侮っていると、その色香の仕掛けた罠にいつの間に絡め取られ逃れることができなくなっている。

(いや、俺だけじゃないんだろうな)

 蝶子の魔性は晴臣にだけ発揮されるものではない。今日一日、一緒に外出して晴臣はそれを嫌というほどに実感した。すれ違う男はみな蝶子を振り返り、その美貌に呆けたようになっていた。

(焦りと独占欲。自分のなかにこんな俗物的な感情があったとはな)

 晴臣がことを急いているのは、ただの独占欲だ。ほかの男に取られる前に彼女を自分のものにしてしまいたい。子どもじみた、みっともない欲望だ。だが、わかっていても、もう止めることなどできそうにない。

「蝶子という名は恐ろしいほどに君にぴったりだな」
「――え?」
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