冷徹ドクターは懐妊令嬢に最愛を貫く
 蝶子が家で待っている。そう思うと途端に、昼夜の別なく多忙な生活に嫌気がさす。これまでは忙しければ忙しいほど充実していると感じていたし、休みが欲しいなどと思ったことはなかったのだが……。

「自分で思っているより重症かもな」

 そうひとりごちて、晴臣は静かにマンションの玄関ドアを開ける。時刻はもう夜二十三時過ぎだ。しかし、長い廊下の奥にあるリビングルームには明かりが灯っていて、かすかに開いた扉から蝶子が顔をのぞかせた。

「おかえりなさい、晴臣さん」

 晴臣は足を速めて彼女のもとに歩み寄ると、たしなめるような口調で言う。

「先に寝ていろと言ったのに」
「ごめんなさい。今日は宿直ではないと聞いていたから、せめて顔を見てからと思って」
「いや、怒っているわけではないが」

 しゅんとしてしまった蝶子を見て、晴臣は慌てて弁解の言葉を口にする。

「君は朝が早いから、身体を壊さないか心配しているだけだ」

 蝶子は朝早く起きて勉強をしてから、研究室に行くという生活をしていた。夜遅くなるのはきっと負担だろう。晴臣はそう言ったが、蝶子ははにかむように笑って首を振る。

「晴臣さんの顔を見ると元気が出てくるんです。だから、心配しないでください」
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