冷徹ドクターは懐妊令嬢に最愛を貫く
「電車がそんなに珍しいか」

 晴臣が笑うと蝶子は少し恥ずかしそうに答える。

「旅行なんて久しぶりで……私を産んでくれた母は旅行好きだったんですけど」

 晴臣はなんと答えてよいかわからず口ごもった。彼女の実母は失踪して生死もわかっていないはずだ。だが、蝶子の表情から彼女が実母を恨んでいないことはわかった。穏やかに懐かしむような顔だったからだ。

「箱根は初めて?」
「いえ、研究室で仲良しの友達と。そのときはプールのある大きなホテルに泊まったんですけど」

 蝶子は友人との旅行の思い出を楽しそうに語った。蝶子から友人の話を聞くのは初めてだったが、よい人間関係に恵まれているようで晴臣はほっと安堵した。

「気が合う仲間なんだな」
「はい! 私にとってふたりは初めての親友なんです。今度、晴臣さんにも紹介しますね」
「楽しみにしておく」

 蝶子の研究室の話、晴臣の米国での日々。そんな他愛ない話をしていると、列車はあっという間に目的地に到着した。
 大型連休ではない普通の週末だが、箱根の駅はそれなりの賑わいを見せている。少し観光をして、夕方頃に宿に向かった。
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