ちょうどいいので結婚します
「……そう言えば、」
 千幸も思い出すことがあった。功至と多華子の会話。確かに『本性』と言っていた。

「やっぱり、こうなって良かったんじゃないか。あの日、俺に向けた視線が刺々しい気がした。なんていうか、ちーの言うように全然爽やかでも、人当たりが良くもなかった。あれは、裏があるね」
「んー、でもさあ、ちーと婚約してからも堂々と他の女と会ってるんでしょ? しかも会社の近くをウロウロする? 千幸の父(社長)が見てるかもしれないのに?」
「確かにな。開き直ってんのかな」
「開き直ってんなら、ちーが良一と一緒にいて、良一に刺々しい視線向ける? どうでもいいか、せめて外面は取り繕うでしょ。悪い男にしては詰めが甘いというか……」

 功至が悪い男であるという前提で進む話に千幸は待ったをかけた。

「そんな人じゃないのよ。私にも誠実に接してくれたしね。何より向こうがしてくれたことは私にメリットしかなかったよ。むしろ、彼にはデメリットしかないと思う」

 千幸にはどうしても悪い男というフレーズと功至が結びつかなかった。

「んじゃあ、単純にちーが良一(《他の男)》といるのが気に入らなかったとか?」

 これには、千幸がすぐに否定した。

「まさか」

 もしそうなら、功至が良一に嫉妬したということになる。

「そんなわけないじゃない。何にしても、私たちはうまくいかなったの。元々私には夢みたいな話だったんだもの」

 そう言った千幸に、咲由美も良一も眉を下げてしまった。
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