ちょうどいいので結婚します
「そんな悲しそうな顔しないで。私は平気。元々結婚する気がなかったんだから、元に戻っただけ」

 そう言っても、心情を推し量ってか二人は一生懸命に慰めてくれた。その様子を見て千幸はやっぱり兄妹よく似ているなあと優しさに顔を緩めた。大丈夫、そう強く思った。

「最後に、私の気持ちだけはちゃんと伝えるつもり。うまく、伝えられるかわからないけど、頑張るね」

 千幸がそう言うと、咲由美の瞳が潤んだ。
「うっ。ちー、何て健気なの。いじらしい! こんなちーの良さがわからないなんて、その男どうかしてる! よしよし、私が他にうんっといい人探してあげるから!」
「ちょっと、だから私の話聞いてた? 結婚する気がないんだってば」

 千幸は言ったが、咲由美は顔をくしゃっとさせて、ますます同情した。

「うんうん。わかってる。彼以外とは結婚したくないんだよね。でもさ、一生彼に操を捧げるわけにはいかないじゃん? そのうちまた結婚したいくらい好きになれる人が現れるかもしれないじゃん」
「ないよ」

 千幸が言うと咲由美は勢いを失った。良一が見兼ねて口を開く。

「そんな、すぐには無理だって。な」
「いや、でも。その男だってさ、期待させといて振るとかおかしくない? 先に承諾した千幸に悪いから結婚するって、おかしい。余計悪い結果になってんじゃん」
「……ほんと、そうなんだよな。意味がわかんねえ。千幸、告白した時に何で結婚に承諾したんだって聞いたらどうだ。責めたっていいくらいだぞ」

 千幸は二人の怒りに、うんと力なく頷いた。
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