ちょうどいいので結婚します
 午後、功至はいつも通り過ごせば千幸と話すチャンスがあることに気がついた。

 他の人の仕事まで引き受ける千幸は毎日残業をしていた。それを上司である自分が引き受けたら二人で残業出来るではないか。

 だが、残業が多すぎても話にならない。残業にはなるが、そう遅くはならない程度に今のうちに仕事を引き取ることにしようと思い立った。

 が、結局他の人から仕事を回されてしまい、肝心の千幸には無視されてしまうという空振りに終わった。

 ──定時少し前。
 席を外し、部署に戻ると残業であるはずの千幸の姿が見当たらなかった。

「あれ、小宮山さんは?」
「用事があるとかで、定時ちょうどに帰られましたよ。なーんか、今日は色々と珍しいですよね。どうしたのかな、小宮山さん」

 功至は心底がっかりしたが、どのみち定時で帰らなければならない用事があったのなら自分が食事に誘ったとしても断られただろうと自分を納得させた。

 それよりだ。やはり今日一日、千幸の様子を見ていて、とても自分と結婚するとは思えない態度だった。本当に千幸に了承を得ているのだろうかという疑問が拭えなかった。ましてや、千幸も『乗り気』だとは到底思えなかった。

 職場からの帰り道、家に着くまでも我慢出来ず、勇太郎に電話をした。

本当に千幸は、自分と結婚することを了承したのだろうか。むしろ、結婚の話など知らないのではないか。そう思ったからだった。
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