ちょうどいいので結婚します
 父親の勇太郎はすぐに電話に出た。勇太郎も功至が千幸と顔を合わせたはずの今日は緊張して過ごしていたからだ。まさか、気が変わったと言い出すのではないかと気が気でなかった。

「小宮山さんのことだけど」
「あ、ああ。どうした?」
「俺と結婚することを、彼女は了承したんだよな?」
「……そうだが。彼女が頷いたからお前に話を持って行ったんだ」
「成る程」

 功至はほっと息を吐いた。が、勇太郎は疑問が拭えなかった。

「何だ、今日は千幸さんと会ったんじゃないのか? 俺と向こうの父親も話をしているが、お前と千幸さんは同僚なのだから、後は二人でと思っていたのだが……」
「あ、そうそう。勿論そうだ。後は俺に任せて欲しい。念のため聞いておこうと思っただけだ」
「そうか。心配いらないんだな?」
「勿論。彼女を連れて帰る時はまた連絡する」
「ああ、そうしてくれ。母さんがうるさくて」
 功至の声が明るいことに安心してか、勇太郎は電話を切った。
 
 功至も確認したことで、もう一度気持ちが舞い上がることになった。良かった。間違いじゃなかった。また明日、声を掛けてみよう。功至はさっきとは違う足取りで歩いた。父親に目の前にいる千幸に声もかけられない男だと思われても困る。これ以上は何か決まるまで親に報告は避けておこうと思った。

「あれ、どうしたの、こんなところで立ち止まって」
後ろから声を掛けてきたのは多華子だった。功至は心置きなく顔を崩した。

「聞いてくれよ、俺、ちゅきちゃんと結婚することになった」

 多華子の目は驚きでこれ以上ないくらい大きく開かれた。
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