雨降る傘の下で、愛は始まる〜想う愛に想われ愛
【同行研修 忘れ物編】
翌週の月曜日、今週は同行の予定がなかった。
今週は内勤だぁ。
そう思って、ほっとしてパソコンに向かっていた。
神崎さんは、他のチームの人と外出の予定があるらしく、準備をしていた。
「朝比奈、明日の外回り、一緒に行くか?」
「えっ、でも」
「明日は俺1人だからな。お前に迷惑かけられるのも、指導係の俺だけ済む」
そういうことですか。
「今度は近いからなぁ。車で行くし、寝る暇ないし」
神崎さんは、うっすら笑みを浮かべて、鼻であしらった。
「ね、寝ませんよ。連れて行ってください」
「じゃあ、明日の資料、準備して」
「わかりました」
「これだけど・・・」
私のパソコンから、サーバーにあるデータを開いて、教えてくれた。
殆ど出来ている書類の体裁を整えるだけだった。
これなら何とかできそうだ。
「いけるか?」
「はい、大丈夫です」
「じゃあ、悪いけど俺、今日直帰なんだ。明日の朝、直ぐに行けるように、書類の準備出来る?」
「任せて下さい」
「頼んだぞ」
神崎さんに頼まれて、少しは力になれると思うと嬉しくなった。
「今度は神崎さんに迷惑かけないようにしないと」
私は、書類を作成して、明日に備えた。

翌日は、朝一に神崎さんが運転する車で出掛けることになった。
「朝比奈は運転しないの?」
「免許は持ってるんですけど、運転はしないです」
「それは良かった。お前は乗るな。危なっかしい」
「大丈夫ですよ。もう前みたいな失敗はしません」
「そうしてくれよ。残りの研修期間、無事終わることを祈るわ」
そう言って、神崎さんは微笑んでいた。
神崎さんの微笑む顔、こんなに優しいんだ・・・
「どうした?俺、何か言った?」
「いえ、別に」
いつもと違うからびっくりしただけです。
そんなことは口を裂けても言えない。
笑顔の素敵さは、水森くんで十分だ。
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