惚れ薬を飲んだせっかち男爵はとにかく今すぐ結婚したい
 いつの間にかエリーゼは眠っていた。
 カクンッと頭が下がり、バランスを崩しかけた彼女の体を掴んで支え、俺の膝を枕にする様にそっと寝かせた。
 その時、彼女の左手が動き、俺の足に触れた。

 彼女はいつも手袋をしている。
 失ってしまった左手の小指を隠すために。

 そしてその原因は俺にあった。
 彼女は昔、俺に襲いかかってきた狼から俺を庇い、その小指を失った。
 今もその時の事を思い出すと、激しい後悔と罪悪感に襲われる。

 そのこともあり、俺がどんなにエリーゼに対して好意的な態度を示していても、失った小指に対する罪悪感からだと思われている。

 ・・・いや、それだけじゃないか・・・
 俺が決定的な言葉を彼女に伝える事が出来なかったからだ。
 君を前にすると、何故こんなにも自信が無いちっぽけな男に成り下がってしまうのだろうか・・・。

 そのあげく・・・こんな物に頼ってしまうなんて・・・

 俺は懐に隠し持っていた小瓶を手にした。
 中にはあの時の惚れ薬と同じものが入っている。

「もしもあの時、惚れ薬を使わずに君に告白していたら、君はどんな反応をしてくれただろうか。」

 眠っている彼女には聞こえないのは分かっていたが、その言葉は無意識に口から出ていた。

「エリーゼ・・・すまない・・・」

 俺は君の事になると、いつも選択を間違えてしまう。
 歪んでしまった俺達の関係を、更に歪ませる事になってしまった。
 
 だが、もう後戻りは出来ない。
 どんな卑怯な手を使ってでも・・・。
 君と一緒に生きていきたい。共に過ごしたい。
 
 たとえ、胸に僅かに残る虚しさと後悔を抱える事になっても・・・。
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