酔いしれる情緒
(……あ。そうだ、私……)
頭痛が消えたことにより、脳内に蘇る出来事。
お水だと思って一気飲みしたアレは、飲んだ後、喉がカッと熱くなったんだから絶対お酒だった。
……あの野郎。料理の説明よりもお酒があることを説明しろよクソ。
お酒を飲むなんて久々で、しかも一気飲み。
そして案の定酔ってしまったわけだ。
それ以降全く覚えてないし。
(お酒って、怖っ)
酔って記憶がなくなるのは人生で今日が初めてだったりする。
だって私、お酒に強いはずだし…。
閉じていた目を恐る恐ると開けて隣にいる春に向けてみる。
春は私の頭を優しく撫でながらも
視線は窓の外に向いていた。
その姿はどこか遠くを見つめ、どこか物思いにふけているような。
橋本さんに……何か、言われたのだろうか。
私が眠っている間に二人の間で何かがあった?
私と橋本さんが繋がっていることは既に春にはバレているだろう。
だとしたら「なんで黙ってたの?」とか言って機嫌悪くなってもいいくらいなのに、今の春からはそんなオーラを1ミリも感じない。
ただただ寂しそうに、切なそうに。
その綺麗な瞳に色がない。
「着きましたよ」
由紀子さんの声と共に
バチッと春と目が合った。
やば。見てたのバレた…?
軽く焦る私とは違い、さっきまでの浮かない表情とは別に春は優しい笑みを浮かべている。
「着いたって。」
「あっ…うん、」
肩に回されていた腕を離されると、
心地良いぬくもりはスっと消え失せた。
降りる準備を、と思って
軽く身支度するのだけど
「………、…春?」
「ん?」
「…降りないの?」
降りる様子を見せない春に違和感を感じ、そう問いかけた。
すると春は一瞬キョトンとした顔を浮かべたあと、「…あぁ、」と小さく言葉を漏らして
「降りないよ」
「なんで?」
「ここは俺の帰る場所じゃないから」
帰る場所じゃない?
(何を言って…)
よく分からないその言葉に疑問を持ちながらも、私はこの車から外に出る。
その瞬間、やっと気づかされるのだ。
「ここ…」
私の瞳に映るのは
どデカいタワーマンション、ではなくて
至って普通なアパート。
正確に言えば、
私が前に暮らしていた場所だったから。