酔いしれる情緒
「まだ気分悪いでしょ。
早く横になった方がいいよ」
「………………」
春は私の手から離れると
ポケットから何かを取りだした。
そして行き場をなくした私の手のひらに
小さくて少し冷えたそれを置く。
……意味が分からない。
なんでアンタが
ここの部屋の鍵を持っているのか。
なんで
「…じゃあね、凛。」
寂しそうな顔をして
私を突き放そうとするのか。
呆然とする私に対し、春は由紀子さんに
「出して」と合図した。
由紀子さんは一瞬私を見た気がしたけど
言われた通りにエンジンをかけ始める。
……ほんとめちゃくちゃだ。
なんの説明もないままここに降ろされ
遠回しに『さよなら』を告げられた。
やっと再会出来たかと思えば
この有様だなんて
「………ふざけんなっ…」
私はいつもコイツに振り回されてばかりだ。
頭の中で何かがプチンと切れたあと、
考えるよりも先に動いた手。
今度は腕なんかじゃなくて
自分勝手なコイツの胸ぐらを掴む。
グッと自分の元へと寄せてしまえば
案の定春の身体は簡単に傾いた。
「由紀子さん。ちょっとコイツ借ります」
「えっ!」
由紀子さんの慌てる声が聞こえてくる。
けど、今はもう構ってなんていられない。
待って!と言われても無視。
春の胸ぐらを掴んだまま車から引きずり下ろし、されるがままの春を連れてあの部屋へと連れ込んだ。
意外にも由紀子さんが私達の後を追うようなこともなければ、
春自身が抵抗するようなこともなく、
意図も簡単に連れ込めた。
バンッ!と煩く扉を閉めては
ふわりと懐かしい香りがするこの部屋。
玄関の狭さも、廊下の短さも、
シンプルな電灯も。
何もかもが懐かしいなと感じるけれど
懐かしむよりも先に、することがある。