酔いしれる情緒
「説明して」
目前にいる彼に視線を当てた。
目は合わない。
春の目は帽子の鍔に隠れて見えなかった。
「この家のことも、言葉の意味も。
隅々までちゃんと分かるように説明して」
「………………」
「じゃないと受け入れられない」
「………………」
何を言っても返事は無し。
ずっと黙ってないでなんとか言えよ、と
もう一度胸ぐらを掴もうとした─────
────その瞬間。
「!? 」
肩を割と強い力で押されたかと思えば、ぶつかった先はさっき閉めたばかりの玄関の扉。
春のその行動にはもちろん頭にきて
眉間に皺を寄せ
ギロッと睨むも
私の目は
春を映す前に
床に落ちた彼の帽子が映る。
そして─────
「ちょ、っ……」
唐突にも薄暗くなった視界。
身動きが取れないほどの強い力。
唇に触れる、柔らかい感触。
カシャンと冷たくて硬い物が鼻筋に当たっては
その冷たさといい
その感触といい
ギッと目を細めた。
扉に押し付けられているような、
そのくらい強く押し付けられた唇。
「は……っ…ん、…」
「春」と声を出そうとした矢先、
口が開いたのと同時に滑り込む熱い何か。
口内を熱くとろけるように犯すそれは
徐々に頭の中まで支配されて
春の腕をこれでもかと抵抗するみたいにギュッと掴んでいた手に力が入らなくなった。
全身の力が、抜けていく。
壁に寄りかかってなかったら
きっとその場に崩れ落ちてた。