酔いしれる情緒
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平凡な日常に戻ってから一週間が経った。
一人の時間が増えた今、本を読む機会も増えた。
仕事が終われば真っ直ぐ家に帰り、ご飯を食べて、用事を全て済まし、本を好きなだけ読んで眠りにつく。
やっぱり私にはこんな毎日が性に合う、そう思うようにしてる。
あの日から春には一度も会っていない。
「引き裂かれる訳にはいかないよね」なんて言っといて、あれから放置状態にされている私。
離れる訳にはいかない。そう言ってくれた気がしたのに、最後に会った日から何の音沙汰もなく進んでいく日常。
どうやら私はその意味を取り違えたみたいだ。
帰る場所も高級感が漂うあのタワーマンションなんかじゃなく庶民的なアパートで、
エントランスに入る度に緊張してしまうような、そんな感覚は一切感じない、そんな場所。
始めはなんにもない所でどう生活しようかと
「今日からここで寝る」と後先考えずに言ってしまったことに後悔した。が、
この部屋は前に住んでいた時と変わらずで、家具とか何故か全てそのままになっていた。
それを見た時はもちろんゾッとしたけど
ここの契約が終わる時「家具とか捨てるつもりなら全部置きっぱなしでもいいよ」と。
気持ち悪いほど優しかった大家さんにそう言われていたことを思い出しては
きっと裏で春が手を回していたんだろうなと思うと妙に納得してしまった。
そのままの状態で残しておいて欲しい、とか言ったんだろう。
私の許可なく見知らぬ男の言い分を鵜呑みにするなんて、ここの大家の緩さには少々不安になる。
春がここを残した意図は今でも想像つかない。
けど、また私がここに住むようになった今、春はこうなることを予期していたかのようにも感じる。
また1人で突っ走って……何の相談もなくこういうことをされると、私って相談出来ないくらい頼りないんじゃないかと思えた。
分かっているなら、そのうちこうなるよ、ぐらい教えてくれてもいいのに。
そんな春は今
何をしているのか、どこにいるのか。
会ってないんだから何も知らないし、分からない。
彼はちゃんと生きているだろうか。
家事も料理も出来ないんだからそんな心配も少なからずしていたけど、私と出会う前もちゃんと生きていたんだから大丈夫だろうと謎に決めつけた。
彼も子供じゃない、いい大人だ。
心配する意味が分からないけど。
(関わりは────もう無いに等しいのに。)
そう決めたのは紛れもなく春自身で
自分の意見を強引に突き通そうとする、そんな春が決めたこと。
そんな人に何の説明もなく遠ざけられた私は
足掻くことも
問い詰めることも出来ず
『あなたは春に良いように言い包められているだけ。』
ムカつくけど、
橋本さんの言う通り
私は奴(春)に上手く言い包められ
ただただ願い待つことしか出来ないのだ。