酔いしれる情緒
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「安藤さん、これ追加で出しといて」
「わかりました」
店主に言われた物を店内の本棚に出していく。
これ最近人気の漫画だよね。
老若男女に人気のやつだ。
よくテレビ番組とかで紹介されているし。
テレビを見始めたからか、私はそういうことも知るようになった。
この漫画みたいに流行りのものや、映像化が決まった作品とか、テレビを見ているといろんな情報が入ってくる。
今までなんで見てこなかったんだろう。
なんだか損した気分だ。
本を棚に並べていると、
慎二くんの「安藤さーん!」と私を呼ぶ声が聞こえて視線をあてる。
やばっ、レジ混んでた。
普段なら気づけることなのに、今の私はどうも気づけないらしい。
ちゃんと集中しないと。
「お次のお客様こちらどうぞ」
休止中プレートを退かし、1番前に並んでいたお客さんを誘導した。
それから何人か接客し、最後の一人。
本を片手にスっと目の前に現れたその人は、
この間私を不快な気分にさせた男で。
「こんにちは」
「いらっしゃいませ。670円になります」
「無視ですか?」
ニコニコと微笑まれている。謎。
「無視も何も、お客様にちゃんとした対応をとっているだけです」
「それについては答えてくれるんですね」
「……………」
橋本さんはそう呟きながら財布の中を探る。
なんだろう。無性に腹立たしい。
橋本さんがここに来た理由はたぶん、
というか、絶対に私が目的だ。
だって慎二くんのいるレジが先に空いたというのに、この人はそっちに敢えて行かず私の方へとやってきたんだから。
「心配しなくても、あなたの望む通りになりましたよ」
私の言葉に橋本さんは分かりやすく反応を示した。
「え?」
「あの日から春には会ってません。
家政婦も辞めた、いえ、辞めさせられました」
「ほう」
「今は自分の荷物をどう取りに行こうか考えているところです」
遠回しに、こうなったのはあなたのせいだと言わんばかりの嫌味を吐いた。
完全に八つ当たりだ。この道を選んだのは紛れもなく春自身だというのに、橋本さんを目の前にするとイライラして仕方がない。
この人が私の前に現れてなければ
今頃私はこんな気持ちになっていない。
イライラして
けれども寂しくて
苦しさを覚え、悲痛だけが残る。
1人になってしまった今、
この先の未来が怖い。