酔いしれる情緒


「…………………」





息を吐けば白い息が出る。



冷えた指先は少し赤くなっていて、もうあまり感覚がない。





指先も。そして冷えきった心にも。



今の私には………もうぬくもりが足りない。





早く貼って中に入ろう。



そう思い、寒空の下であまり感覚のない指先がポスターに触れた──────瞬間だった。





「わっ…」





一度大きな風が吹き、まだちゃんと貼れていないそれが飛んでしまいそうになる。




やばっ…飛ぶ!!




慌てて両手で抑えると





「っ、!」





同じタイミングで、私の手の横に現れた誰かの手もそのポスターを抑え込んだ。




視界が少し薄暗くなったのは


私の後ろに立つ人の影によって生まれたもので。






「大丈夫?」





綺麗な指先といい、私を後ろから挟むように腕を伸ばすその人はどこか楽しげに言う。








「これ、飛んでっちゃうところだったね」







私の意識をハッとさせる、懐かしい声で。







聞き間違い?




いや、違う。

聞き間違いなんかじゃない。






ついさっきまでその人のことを考えていたし




風と共に流れてきたこの香りを────────忘れるわけない。

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