酔いしれる情緒
「もういい、って…」
……また意味のわからないことを。
目撃されて困るのはアンタの方なのに。
「橋本さん、来たよね?ここに。」
「……来てたけど」
「何か言ってなかった?」
「(何か……)」
春の言葉にあの日のことを思い返してみる。
あの日の橋本は来て早々適当に選んだ雑誌を買って、仕事の邪魔をして、名刺を渡してきただけだったな。
あの派手目な名刺を。
「名刺……」
「名刺?」
「名刺を、渡された」
「………ほう。」
「どうせ捨ててるだろうから新しいの渡しておくって」
「捨てたの?」
「…前のやつはね。もうその世界と関わることないと思ってたから」
でも新しいのはちゃんと持ってる、っと。
実はというと、橋本に半ば強引に渡された名刺はちゃんと携帯カバーの中に入れてあったりもする。
あの人が手元に置いてて欲しいって言うから
ちゃんとその通りにしてやっただけで。
その証拠を春に見せようとズボンの後ろポケットから携帯を取り出そうとすれば、
「なんで?」
少し怒っているように見える彼がグッと顔を近づけてきた。
私の瞳いっぱいに春の顔が映る。
「っ………」
………近すぎる。
上手く喋れない。
今の私、大丈夫かな。化粧崩れてないかな。
なんて。
乙女のようなことを考えてしまう。
相手は私のことを何もかも知っている人なのに。