酔いしれる情緒



「っ、!」




指輪を眺めていると



突然唇に柔らかいものが触れた。




視界が薬指のシルバーリングから

一瞬で人の顔でいっぱいになって





「おまたせ」





春は後ろから私を覗き込むようにキスをした。



その行為には一瞬頭が無になってしまったけど、私は動揺を見せることなく目を合わせる。





「橋本さん?」


「そ~。

次会うとき覚えとけよって脅されちゃった。
相当怒ってるね~。あー怖い怖い」





そう言いながらもニコニコと上機嫌で、言ってることと表情が一致して無さすぎるけどそれはもういつもの事だからほっとくとして。




春は私が指輪を眺めていた事に気がついたのか、



その手をやんわりと掴むと





「俺達本当に結婚したんだね」





その手を眺めながら私と同じ事を言う。





「あんなことしておいて実感ないの?」


「あんなことって?」


「仕事中にプロポーズしたり勝手に連れ出したり……ほんと、出会った頃と変わらず強引なんだから。」


「善は急げって言うじゃん。凛と交わした約束も叶ったし事務所との約束の期間だって終わった。ならもう待つ必要がない。
だから躊躇ってないで行動しただけだよ」





春からすればあの行動は全て『良いこと』の括りになっているらしい。



大いに迷惑をかけた人が1人いるというのに。





「菓子折りだけじゃ済まないな…」


「ん?菓子折り?」


「橋本さんに。代わりに働いてくれたんだから、そのお礼にね」


「そんなことしなくていいって」





春はそのまま私の隣にやってくると私と同じように背もたれに深く身体を預けていた。





「お願いしたのは俺なんだし、凛は巻き込まれただけ。全部俺のせいにしとけばいいよ」


「例えアンタが決めたことだとしても、働いてくれたことには変わりないんだからちゃんとお礼がしたいの」


「律儀だね~」


「普通の発想だから」





ふーん。と、



そう呟いた春を横目に私は携帯に視線を移す。




確か橋本の連絡先登録してた気がする。




名刺を持ち歩くのは面倒だし、それなら登録しとけばいいやと思って。

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