酔いしれる情緒


連絡先の一覧の中から『橋本』の文字を探す。



あれ、どこだ。


あの派手な名刺なんて持ち歩きたくなかったからちゃんと登録したはずなんだけど。


と、何度も上下にスクロール。



熱中してその名前を探していれば

隣から「あっ!」と声がした。





「そうそう。凛連絡先教えて」





………唖然とする、はこういう時に使うのだろう。





「教えてって…だいぶ前に交換したじゃん」


「その携帯をつい最近水没させちゃってさ~ 新しいのに変えたんだけどデータ全部吹っ飛んじゃって。何もかも最初からになったんだ」





ほら。と、見せてきた携帯の画面は見た感じ初期段階って感じで、言ってる通り携帯自体も新品同様の綺麗さがあった。




(………あ、だから。)





「返事なかったんだ…」


「返事?………えっ。待って、連絡くれたの?」


「1回だけね。電話をかけただけ。
特に用事があった訳じゃないけど…」


「声が聞きたかった?」


「…………………」


「それとも、会いたくなっちゃった?」





さっきまで慌てた様子を見せていたくせに

今じゃ悠然とした笑みを浮かべてくる。



そんな顔を見せられては素直になるのがなんだか癪で。



私は手早く春が求めている画面を開けると
その顔面に携帯を突きつけた。





「さっさと登録すれば?」


「スグする!」





春は未だ笑みを浮かべたままだけど。





そして数秒も経たないうちに連絡先の登録を済ませたらしい春は隣で菓子折りを調べてた私にそっとその画面を見せてきた。



そこには私のメールアドレスと電話番号、


それから『一ノ瀬凛』の文字が。




まだ慣れないその文字列に「一ノ瀬じゃないし」なんて言いかけたが、寧ろ全然間違ってなんかない。





「わざわざフルネームにしなくても」


「この方が俺のって感じがするじゃん」





春はそう言うけど


感じ、じゃなくて。





「苗字本当に俺のでよかったの?
俺が凛の名前貰っても良かったんだよ?」


「いいの。その方が春のものになったんだってちゃんと思えるから」






似たような事を言ってやれば


春は分かりやすく私に甘え、





「じゃあー…」





いつにも増して爽やかな笑みを浮かべると


もう一度確かめるみたいに彼は言った。





「あの本の主役に俺が抜擢された。


約束通り、凛をもらうよ」





夢見心地のような感覚はある。



だけど、これは夢なんかじゃない。






「───とりあえず新婚旅行でも行っとく?」






正真正銘、これが私の物語なのだ。













酔 い し れ る 情 緒








──────────────

ご愛読ありがとうございました!
丁度いい区切りとして、出会い編はここで終了とさせていただきます。

その後のお話は

【続】酔いしれる情緒

にて、続編を執筆していきます。
(既に公開済みです!)


STORY(仮)───────────
やっと関係に名前がついた凛と春。
仕事の時間も惜しいほどお互いに依存し合う二人だが、新たな人物の登場によって結婚早々甘い関係に歪みが…?
────────────────


今後ともよろしくお願い致します^^


桐沢奈玲


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