海とメロンパンと恋



四人分の食器を運んで
お母さんと並んで連携中


「あのね、胡桃」


「ん?」


「嫌なことは嫌って言うのよ」


「うん」


「それから、なんでも自己完結させる癖があるから
これからはそこも変えないとね」


「・・・うん」


「もしも胡桃が相手ならって考えると
答えは変わってくるかもよ?」


「・・・うん」


お母さんの言いたいことが
何を指し示すのか朧げだけど

勝手に自己完結させる癖は当たっている


私が同じことをされたら


・・・ん


例えば、桐悟さんのことだって
牛若丸と弁慶が兄弟だと聞いてから


頭の中を整理したいと連絡を絶ったままだ


穂高という名前と“頭”というキーワードだけで

勝手に想像して勝手に自己完結させた


それが私なら?


急に電話が繋がらないとか
メッセージが既読にならないとか

考えるだけで落ち込むようなことをしてしまっている


「お母さん」


「ん?」


「今更・・・だよね」


「“今更”の意味が分からないけど
本当に大事なことなら
向き合うことから始めなきゃね」


「・・・そっか」


肝心なことを口にしない
謎かけのようなやり取りなのに

お母さんは的確に答えをくれる


「頑張ってみるね」


「そう。その調子よ」


「ありがとうお母さん」


「どういたしまして」


いつもより早く起きた所為で
支度は念入りにできた


パンはパン屋さんができる位積み込んだし


お兄ちゃんは帰る気満々だ


「柚真、胡桃をよろしくな」


「分かってるって」


「胡桃、柚真のご飯よろしくね」


「それは任せて〜!」


両親とご近所さんに見送られて

見晴らしの良いSUV車は走り始めた









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