初恋マリッジ~エリート外交官の旦那様と極上結婚生活~
講師演奏は生徒や保護者の方に日頃の感謝の気持ちをピアノで伝えるのが目的であって、私情を挟むのは間違っている。
私を諭す冷静な声を聞き、そう気づいた。
「ごめんなさい」
「いや。演奏がうまくいくようにウィーンから祈っているよ」
「うん。ありがとう」
ワガママを言ってしまったと肩を落とす私の頭を、彼が優しくなでてくれる。
少しの間、目を閉じて、その心地よさに甘えていると彼がソファから立ち上がった。
「さて、ピアノの練習がどれだけ進んでいるか確認したいし、ご両親にも赴任の報告をしたいから、今日は俺も実家に行く」
「うん」
ついさっきまでムクれていたのが嘘のように、意欲が湧いてくる。
彼が一緒だと簡単に気分が上がる私は単純だ。
「それから、俺がオーストリアに行ったら実家で暮らすのがいいと思う。ご両親と一緒なら俺も安心だし、ピアノの練習もたくさんできるだろ?」
「うん。そうだね」
自分が日本を発った後のことまで考えてくれている彼は、やっぱり頼りがいがある。
ひと足先にウィーンに行ってしまうのは寂しいけれど、四月になって渡航の準備が整えば私も日本を旅立つ。会えない期間はほんの少しだ。
離れ離れになる心細さを紛らわして、実家に向かうために彼と一緒にマンションを後にした。