初恋マリッジ~エリート外交官の旦那様と極上結婚生活~
一時はどうなるかと思ったけれど、彼のおかげで最後まで演奏できた。
「直君、ありがとう!」
途中で心が折れたのが嘘のように晴れ晴れした気持ちで、背後にいる彼の顔を見上げてお礼を伝える。
「いいえ。どういたしまして。みんなにもお礼をしようか」
「うん」
彼の手を借りてイスから下りると、ミスをした私を最後まで温かく見守ってくれた招待客にお辞儀をしてピアノから離れた。
余裕の笑みを浮かべて、鍵盤を軽やかにタッチする彼の姿は王子様みたいにカッコよかった。
「直君、ピアノ上手ね」
「僕の夢は、叔父さんのようなピアニストになることなんだ。だから、小夜子ちゃんが褒めてくれてうれしいよ」
「そうなんだ! 直君なら絶対なれるよ!」
興奮が冷めずに、早口で話す私がおもしろかったようだ。彼が瞳を細めてクスクスと笑う。
「ありがとう。がんばるよ」
目の前にしゃがみ込んだ彼の手が、頭の上にポンとのって優しく跳ねる。
結城のおじさまも頭をなでてくれたけれど、直君の手の温もりの方が心地よく感じるのはどうしてだろう。
心の片隅に芽生えた感情がなんなのかわからないまま、私に優しげなまなざしを向ける彼に微笑み返した。
* * *