初恋マリッジ~エリート外交官の旦那様と極上結婚生活~
大きな拍手を聞き、自分は今ウィーンのコンサートホールにいるのだと思い出す。
「大丈夫か?」
「えっ?」
「なんだか、ぼんやりしているから」
第一部が終わり、休憩時間になっても席に座り続けている私に、彼が心配げな表情で話しかけてくる。
演奏もろくに聞かず、私たちが初めて出会った七歳の誕生日パーティーを思い返していたとは言いづらい。
「ちょっと、感動しちゃって」
「そうか。気分転換になにか飲むか?」
「うん」
演奏に集中できなかった理由を笑顔で誤魔化すと、目の前に大きな手がスッと差し出される。
女性をエスコートするさりげない仕草が板についているのは、ご両親が外交官で海外暮らしが長いからかもしれない。
「ありがとう」
彼の手を借りて立ち上がり、ホールを出た先に広がる〝ホワイエ〟と呼ばれるスペースに向かった。
飲み物や軽食などが売られているカウンター前は、多くの人で賑わっている。
「なにを飲む?」
彼が腰を屈めて尋ねてくる。
私の耳もとに口を寄せてきたのは、周囲のざわめきに声が掻き消されないため。それでも、急に距離を縮められては気恥ずかしい。
「直君はなにを飲むの?」
「俺はワインを飲む」
「じゃあ、私もワインで」
「へえ、飲めるのか」
ドギマギして返事をする私を見た彼が、まばたきを盛んに繰り返す。