初恋マリッジ~エリート外交官の旦那様と極上結婚生活~
それにしても、彼の口から出るのは美琴さんを気遣う言葉ばかり。元カノを一切責めない彼に、嫉妬が込み上げてくる。
「直君は、美琴さんのせいで事故に遭ったとは思っていないの?」
意地悪な質問を投げかけると、彼が眉根を寄せて口を結んだ。
今まで流れるように過去を語っていた彼が黙り込んでしまったのは、低俗な質問には答えたくないという意思表示なのかもしれない。
優しい彼が、元カノである美琴さんについて悪く言うはずない。
変なことを聞いてしまったと後悔したとき、彼が口を開いた。
「美琴や仲間の前ではリハビリをがんばって、またピアノを弾いてみせると強がった。けれど、自分の体は自分が一番よくわかる。医者に宣告される前から、左手はもとには戻らないとわかった。ピアノを弾けなくなったのは美琴のせいだと恨んだし、彼女を助けなければよかったと思ったときもあった。でも、見舞いに来るたびに謝られたら責められないだろ? だからあれは不慮の事故で、美琴を責めたらいけないと自分に何度も言い聞かせた。心の奥では彼女を憎んでいたのにな」
時折、声を詰まらせて苦しそうに話す彼を、何度も止めようと思った。でも、過去のつらい思いを吐き出さない限り、未来には進めない。
そう思い、あえて口を挟まなかった。