初恋マリッジ~エリート外交官の旦那様と極上結婚生活~
「どうして、またピアノを弾こうと思ったの?」
「今日の小夜子の演奏を聞いて感動したんだ。俺がオーストリアに行ってから、たくさん練習したんだろ? だから俺も小夜子に負けないくらい努力すれば、またピアノが弾けるようになると思った。そんな単純な理由じゃ納得できないか?」
「ううん。そんなことない」
彼との連絡を絶ったこの一週間は練習に没頭したし、本番では感謝の思いを込めてメロディを奏でた。
今までで一番いい演奏だったと自信を持って言える私のピアノを聞いて、心変わりしてくれたのなら本望だ。
「俺をウィーンでの最初の生徒にしてくれるか?」
「もちろん。七歳の誕生日パーティーのとき、直君がフォローしてくれたでしょ。だから今度は私が直君の左手になる」
「ありがとう。うれしいよ」
彼の左手を両手で包み、手首の裏に残る傷跡に唇を寄せる。
もう私は、泣いて助けを待つだけの無力な少女じゃない。彼の隣で手を差し伸べられるまでに成長した。
「レッスン曲はなににする?」
端正な顔を見上げて尋ねると、彼がやわらかな笑みを浮かべる。
「俺たちにはあの曲しかないだろ」
「あの曲?」
「きらきら星変奏曲だ」
私たちが初めて出会ったときに、ふたりで奏でた曲は新たなスタートに相応しい。
「そうだね」
ふたりでピアノを奏でるウィーンの新生活に思いを馳せて、彼の胸に頬を寄せた。