初恋マリッジ~エリート外交官の旦那様と極上結婚生活~
「ザッハーには絶対行きたいの」
「ああ、あそこのザッハトルテはウィーンに来たなら、一度は食べてみたいと思うよな」
彼が納得するように大きくうなずいた。
『ザッハー』とは5つ星ホテルザッハーの一階に店をかまえるカフェのことで、ザッハトルテ発祥の地として有名だ。
「あとは明日のお昼の便で日本に帰るから、できれば今日中にお土産を買いたい」
ウィーン旅行も明日で終わり。友人や職場の人たちに配るお土産のほかに、自分用にもなにか買って帰りたいと思っている。
「観光地には行かなくていいのか?」
「昨日、シェーンブルン宮殿には行ったの」
「ひとりで?」
「もちろん。宮殿と庭を見た後に、丘の上まで行ったんだ」
昨日の出来事を自慢げに話す私の前で、彼が目を丸くする。
「意外と行動力があるんだな。驚いた」
「そうかな」
ひとり旅を趣味としている女性も多いというのに、行動力があると驚くのは少し大袈裟なような気がする。
そんなことを考えつつ、二個目のカイザーゼンメルにスモークサーモンを挟んで口に運んだ。
「それじゃあ、ここを出たらシュテファン大聖堂を案内する。その後にケルントナー通りでお土産を買って、ザッハーに寄ってからホテルに戻ろう」
「うん。ありがとう」
さすが、オーストリアに二年間住んでいただけのことはある。
この後のスケジュールをサラリと決めてくれた彼に頼もしさを感じながら、食事を続けた。