ハニー、俺の隣に戻っておいで
(イザベラのやつめ! この俺をダシにしようとは!)
ジェームズは頭の中で悪態をついた。

けれども、ジョンの直感は鋭かった。「で、誰とやり合っていたんだ?」と尋ねたのだ。

「おじさんを殴ったのと同じ、ニーナですよ」
ジェームズは物思いに耽っていたので、考えもせずそう口走った。

しかし、その言葉が口をついて出るや否や、傷口に塩を塗るようなまずいことを言ってしまったと気づいた。

案の定、ジョンの瞳はジェームズに向けて怒りの矢を放っていた。ジェームズはびくっとすると、悪いことをして叱られるのを待っている子供のように、素直に従ってまっすぐ立ち上がった。

「おじさん、ごめんなさい。 また変なことを言ってしまいした」
何度も謝りながら、自分をひっぱたいてやりたかった。なぜ彼の口は言うことを聞かないのだろうか?

イザベラの愚かさが移って馬鹿になってしまったのか?

けれども、幸いジョンはジェームズがうっかり口にしたことにあまり注意を払っていなかった。
代わりに、ゆっくりと「イザベラはニーナに罪を着せようとしたのか?」と言った。

そして眉をひそめて集中し、口を尖らせる。 彼の怒りは口角に見える微かな残酷さで誤魔化されていた。

そして、ヘンリーを呼びつけると「ニーナとイザベラの間で何があったのか調べろ」と至急命令を下した。

「かしこまりました」

「俺も行きます」
ジェームズも同行を申し出て、逃げ出すチャンスを掴もうとする。 どうして何があったのかジョンにわざわざ説明しに来たのか、自分でもわからなかった。
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