ハニー、俺の隣に戻っておいで
彼がそんな思いがけず素晴らしい感情を抱くのはニーナとくっついたときだけだった。

ニーナは彼にまだ見ぬ未知の世界へ扉を開けたのだ。ジョンはその世界を彼女と一緒に冒険するつもりだった。

ロマンチックな雰囲気が車全体に広がってふわふわと車内を満たし、その効果はなかなか薄れる気配がない。 幸運にもヘンリーは次に何が起こるか予想できるほどには賢かったので、前席と後席の間の仕切りを慎重に持ち上げ、窓を閉めた。

周囲の視線がなくなると、ジョンがニーナの額にかかる髪をとても優しく持ち上げる。 「俺じゃあ妊娠しないって言ったな?じゃあ確かめるしかないよな?」

確かめるだって? ニーナはパニックに陥ったが、急にハッとしてジョンを全力で押しのけた。

手がジョンの胸に触れたとき、彼女は二人が最初に出会った場面を思い出し、 手は知らぬ間に引っ込んでしなを作っていた。

「俺が怖いのか? おまえは恐れ知らずなんだろ?」

ジョンがからかう。 「あんまり強情だから、ちょっとお仕置きしてやるよ」

「恐れ知らずじゃないわ。 むしろ、怖くて仕方ないの」ニーナの鼓動はさっきよりさらに速くなり、頭に浮かんだことをそのまま口走ってしまっていた。そして慌てて手を引っ込めたが、まだ暖かさが微かに残っていた。

ニーナはようやく、ジョンが秘密のルールを持っていることを理解せざるを得なかった。 彼の言うことを聞く人は成功するが、楯突く者は遅かれ早かれ終わりを迎えるのだ。

彼女も黙ってジョンに従えば上手くゆくのだ。 けれども、彼に楯突いて反抗すれば、容赦なく責め苛まれるに違いない。

では、ニーナは大人しく従うつもりなのだろうか?

まさか、それはできない相談だ。

黙って言うことを聞いていたら、いつでもどこでも彼が望むところに引っ張り出される羽目になってしまうだろう。 しかし、反抗する選択をした場合、少なくとも生き残りを賭けて戦うことはできるはずだ。
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