政略結婚のはずですが?~極甘御曹司のマイフェアレディ計画~
「店の、ため……?」

予想外の答えが出てきて、間抜けにも彼の顔を見つめていた。

「こんなの言い訳でしかないが、店のためには仕方なかったんだ。
それに、鴇田が旦那と別れてくれないのなら、僕はきっと殺される」

古手川さんから聞いた話は、私には許しがたいものだった。



家に帰って部屋にこもる。
ここまでよく、事故を起こさずに運転して帰ってこられたと思う。
それほどまでに、怒りは身を焦がしていた。

「許せない」

ダメだとわかっていながら、行き場のない怒りをついトルソーに叩き込む。

「あ、零士さんは悪くないんですよ。
ごめんなさい」

しかしかかっていたのは零士さんの衣装なので彼に悪く、思わず謝っていた。

「人の夢につけ込むようなヤツ、本当に許せない」

さらに八つ当たりしたいが、なにもない。

……よし、こういうときはひたすら手を動かすに限る!

というわけで、なにも考えずにできるアクリルたわしを無心に編みはじめた。

古手川さんから聞いた話は、私の感情にさらに油を注いだ。
開店資金に困っていた古手川さんに、その男は甘い顔で夢を応援するようなことを言って出資を約束。
しかも後出しで、私と零士さんを別れさせなければ即返済しろとか最低だ。
その頃になりようやく古手川さんも、男が普通の人間ではないと気づいたらしい。
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