政略結婚のはずですが?~極甘御曹司のマイフェアレディ計画~
「自信を持て」

小さな声で零士さんから呟かれ、丸まりかけていた背中が伸びた。

「はい」

真っ直ぐに前を見て、彼と一緒に足を踏み出す。
一歩進めるごとにどよめきが起きた。
格式を重んじるこの世界で、パンツスーツなど前衛的なドレスはふさわしくないのはわかっている。
でも私はこのドレスで……この世界を変えていくんだ。

静まりかえる会場の中、大きな拍手の音が聞こえてきてそちらに目を向ける。
そこでは父が立ち上がり、拍手を送ってくれていた。
それに少しだけ遅れ、反対側からも拍手の音が聞こえてくる。
きっとこれは神鷹のお義父さまとお義母さまだ。
それに促されるように、次第に拍手が大きくなっていく。

……お父様が私の服を認めてくださった。

「よかったな」

零士さんが私にだけ聞こえる声で小さく呟き、黙ってうんと頷いた。
熱いものが込み上がり、目の奥がじんとなる。
落ちそうな涙は、顔を上げて耐えた。
この会場の全員がこのドレスを認めてくれなくてもいい。
零士さんと――父が認めてくれたのなら。

披露宴は温かかった結婚式とは違い、酷くよそよそしかった。

「……やはり面倒だな」

ぼそりと小さく、零士さんが落とす。

「辛抱ですよ、辛抱」

笑顔を貼り付けたまま、こそこそと話した。
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