今さら好きだと言いだせない
 徳永さんに続いて座敷の部屋に入ると、俺はすぐに山本さんと目が合った。「おぉ、芹沢! こっちこっち!」と手招きされ、無視するわけにいかなくなる。
 町宮のそばに終始いるつもりだった俺はのっけからつまづいてしまったが、山本さんには常日頃世話になっているので、ないがしろにはできない身なのだ。

 上半身だけ振り返ると、廣中が大丈夫だとばかりにうなずいて俺に合図を送っているのが目に入った。
 俺もあとで合流するとして、それまで町宮のガードは廣中に任せよう。

「来たのが芹沢で良かったよ。女性陣の目が全部お前に向いてるけど……それはしょうがないか!」

 ガハハと笑う山本さんに「お疲れ様です」と言いながらビールジョッキを合わせて軽く乾杯をする。

「高木が来たらどうしようかと思った」
「それはないでしょう。あの人が営業部の飲み会に来るなんて」

 もしも高木さんが現れたらこの場の空気が重くなるし、女性たちからは軽蔑の目で見られること間違いなしだ。
 和気藹々とはいかないことくらい、さすがに高木さんもわかっているだろう。

 ふと辺りを見回すと、女性たちの中に佐武さんの姿もあった。
 目が合って小さく会釈をすれば、彼女は空いている俺の隣の席までグラスを持って移動してくる。


< 103 / 175 >

この作品をシェア

pagetop