今さら好きだと言いだせない
「そうか? 普通だろ」

 たしかに置いてある家具は普通だと思う。でも掃除が行き届いているし、物が少ないから整然とした感じがする。
 ひとり暮らしの男性の部屋は、私の中ではもっと散らかっているイメージだった。
 カーテンの色は紺色で、濃いグレーのラグが敷いてあって、オシャレなガラステーブルと一人掛けのソファーが置かれている。
 きちんと目に焼き付けておこう。ここに来るのは最初で最後かもしれないから。

「どうぞ」

 食後、彼が私の目の前にマグカップを置いた。紅茶の良い香りが鼻腔をかすめる。

「ありがとう。体が温まるね」

 そういえば以前に芹沢くんとカフェで話したときも紅茶を飲んでいたと思い出した。オシャレな彼には紅茶がとてもよく似合う。
 お酒が強いところもカッコいいのだけれど。

「ねぇ、私を家に入れて良かったの? 嫌な思いをする女性がいたら申し訳ないよ」

 ざっと見た感じでは女性が出入りしている形跡はないので、密かにホッとしていたところだ。
 だけど私がいくら偽装の恋人だとしても、芹沢くんに好きな人がいた場合は、部屋に来たりしたら迷惑になるのではと考えてしまう。

 ……ほら、佐武さんとか。

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