今さら好きだと言いだせない
「悪い。泣かせるつもりはないんだよ」

 私の様子に気づいた彼が、あわててティッシュの箱をテーブルの上に置いた。
 すぐに言葉を発せられなかったけれど、ふるふると首を横に振って、あなたのせいではないのだと伝える。

「仕事で嫌な目にあったわけじゃないの。経理部に行ったときに……徳永さんとバッタリ会っちゃって……」
「なにかされたのか?!」

 徳永さんの名前を出した途端、芹沢くんが血相を変えて私の顔を覗き込んできた。
 それに驚いたのは言うまでもないが、まだなにも内容を伝えていないうちから彼の表情に怒気が含まれているのが不可解だった。

「なにもされてないよ。お互い部署に戻る移動中に少し話しただけ」

 私が苦笑いの笑みを浮かべれば、彼も少し落ち着きを取り戻すように前のめりだった体勢を整えた。

「デートに誘われたの。ホテルのディナーだって。芹沢くんという彼氏がいるってわかってるのにね。……あれ? 驚かないの?」

 私は徳永さんと話していてこの段階で驚いたのに、芹沢くんは不機嫌そうな顔をして深くうなずくだけだった。まるで想定内だとでも言いたげに。

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