今さら好きだと言いだせない
「町宮さん、ごめんね。私と話していたから芹沢くんがデートに遅れちゃって」

 苦笑いで謝ってくる佐武さんに、いつもの私なら愛想笑いの笑みを向けるはずだけれど、今日ばかりはそんな余裕はなかった。
 逆に顔が引きつったのは、単純に寒さからか、この状況だからなのか……

「佐武さん、私……芹沢くんが好きなんです」
「そうよね。付き合ってるんだもんね」
「違うんです。本当は付き合っていないんです」

 真面目な顔で淡々と話す私を見て、佐武さんは混乱したように目を泳がせた。
 私が偽装の恋人だと、彼女はまだ知らなかったようだ。

「でも私は本気で芹沢くんを好きになりました。佐武さんはめちゃくちゃ綺麗で私に勝ち目はないですけど、それでもこのまま黙ってふたりを祝福することはできません」
「あの、町宮さんはなにか勘違いをしているわ」

 はっきりと言い切った私に圧倒されたのか、佐武さんがたじろいだ様子で芹沢くんと私に交互に視線を向ける。

「すみません、俺が町宮と話します」

 佐武さんにそう言いつつ、芹沢くんは大きな手で私の冷たくなった手を丸ごと包んだ。

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