今さら好きだと言いだせない
「あのふたりはいろいろややこしくて、俺は佐武さんに相談されてただけ。さっき会社の外で呼び止められたのは想定外だったけど、妊娠したって言われたら話を聞かないわけにはいかなくなったんだよ」
「妊娠?!」

 芹沢くんはかいつまんで佐武さんと高木さんの関係について話してくれた。
 ふたりは以前から付き合ったり別れたりを繰り返す中、佐武さんの妊娠がわかったらしく、それを高木さんにもついさっき電話で伝えたのだとか。
 結婚するのかどうかは本人たちが決めるとしても、赤ちゃんのことはふたりでしっかりと話し合ってほしい。

「私、ずっと誤解してた。芹沢くんはなぜか私と恋人のフリをしてるけど、本当は佐武さんが好きなんだって。だから私はどんどん芹沢くんを好きになってるのに言いだせなかったの。でも今日は絶対に思いを伝えるって決めてここに来た」

 木っ端みじんに玉砕するかもしれない。そんな不安もよぎったけれど、後悔だけを残した形にはしたくなかった。
 どんなに惨めな結果になっても、地の底まで落ち込む気持ちになったとしても、勇気を出さなければ、と。

「俺も町宮が好きだよ。恋人のフリを提案する前から」

 芹沢くんはバツが悪いのか、フイッと視線をそむけて話し始めた。

「俺も、町宮は徳永さんが好きなのかと勘違いしてた。放っておいたらふたりは自然と付き合うんだろうなって。それで、なんとか町宮に俺を意識させたくて、付き合ってることにしようって言った。姑息だよな。でも俺は俺で必死だった」

 偽装の恋人関係でいるうちに距離を詰めていくつもりだったのだと、芹沢くんが自分の思いを話してくれた。
 私は単純に、溝内さんにあきらめてもらうためだという理由を信じてしまっていた。その裏にある彼の気持ちに気づきもしなかった。

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