今さら好きだと言いだせない
「おぉ、お疲れ。なんだよ、最近堂々とイチャつくようになったのか?」

 私たちに交互に視線をやりつつ茶化すように話しかけてきたのは、なんと徳永さんだった。外出から会社に戻ってきて、私たちと鉢合わせをしたようだ。
 噂をすれば影……その言葉通りで、顔が若干引きつった。

「手もつないでないし、そんなつもりはないんですけどね。もっとイチャついたほうがいいですか?」

 芹沢くんは挑発するように言い、隣にいた私の肩に手を伸ばしてグイッと引き寄せた。

「前から思ってたけど、お前は俺に敵意むき出しだな」
「俺、彼女にベタ惚れなんですよ」

 今のはわざと大げさに言ったのだと頭ではわかりつつも、好きな人にそう言われたらうれしくて、私は反射的に顔を赤くしてしまう。

「町宮さん、幸せそうでよかったね」
「はい。徳永さん……ご結婚されるそうですね。おめでとうございます」
「へぇ、もう知ってるんだ」

 なにがおかしいのか私にはさっぱりわからないが、徳永さんはアハハと笑いながら返事をした。
 それと同時に、彼がいつも付けている爽やかな香水の香りが鼻腔をかすめる。
 人格は以前と違っていても、この香りだけは変わらず上品だ。

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