今さら好きだと言いだせない
「なにか私に話があった? どこかで座って話そうか」

 時計を見るとまだお昼休みの時間は残っていたので、とりあえず移動しようと提案してみたが、彼女はうつむきながらも小さく首を横に振った。

「すぐに終わるのでここで大丈夫です。ちょうど今、誰もいませんし……」

 たしかに今このトイレには私たちふたりしかいないけれど、こんな場所で話していい内容なのだろうか。
 話の途中で誰か入ってくるかもしれないのに。
 やっぱり場所を変えない? と伝えようとしたら、溝内さんが勢いよく顔を上げて先に口を開いた。

「町宮さん、今まですみませんでした」

 彼女が張りのある声を出し、それと同時に深く腰を折って頭を下げた。
 なにが起こったかわからない私は、小さく「え」とつぶやいて、一瞬呆気にとられてしまう。

「溝内さん、頭上げてよ。どうしちゃったの?」

 今にも土下座しそうな彼女を目にし、私はどうしたものかとあわてた。
 なぜ急に謝られているのかわからないし、ここはトイレだし……。

「私、最近ずっと町宮さんにだけわざと嫌な態度を取っていました」

 なんだ、そのことか。あれはやはり“わざと”だったみたいだ。そうだろうなと勘づいてはいたけれど。
 でも、私としては今さら怒る気にも落ち込む気にもなれない。
< 42 / 175 >

この作品をシェア

pagetop