今さら好きだと言いだせない
 その場しのぎについたこの嘘が尾を引くなんて、このときの俺は考えが及ばなかった。
 仕事に影響してはいけないからと何気に溝内さんに口止めをしたし、彼女もあちこちで言いふらすような性格ではないだろう、と。

 なのに翌日、仕事がバタバタして立て込む中で、俺のスマホがメッセージの着信を告げた。
 デスクで仕事をしながら確認すれば、送って来たのは町宮だ。

『お疲れ様。話があるんだけど、仕事が終わったあと少しだけ時間をくれないかな?』

 同じ空間にいて互いに見えている距離なのに直接話しかけてこないのは、ここでは話しにくい内容だからだろう。わざわざ就業後にと告げてきたのも引っかかる。

 パソコン画面に視線をやって仕事に集中するフリをしながら、どんな話なのか想像を膨らませてみれば、思い当たるのは昨日の溝内さんの件しかない。

 もう町宮の耳に伝わったのか?
 それには驚きしかないが、とにかく彼女には説明して謝ろう。
 付き合っているのが事実なら良かったのに。
 好きな女に後手後手で説明せざるをえなくなった自分が情けない。

 そうだ……“嘘から出た(まこと)”という言葉がある。
 これを機に本当に町宮を手に入れればいいのだと、俺の考えが急激にそちらに傾いた。
 姑息で卑怯で小賢(こざか)しい。その自覚はあるが、町宮への気持ちは止められないし、もたもたしていたらほかの男に奪われる。


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