今さら好きだと言いだせない
「そこで町宮に提案がある。俺たち、付き合ってることにしないか?」

 俺が選んだ道は遠回りだ。きちんと自分の気持ちを伝えて、本当の意味で付き合いたいと告白すればいいものを。

「大勢の人に嘘をついて、騙すみたいになるよ」

 真面目な町宮は俺の提案に乗り気ではなかった。彼女が発した正論の言葉が俺の胸を突き刺す。

「社内で誰かに俺と交際してるかと聞かれたら、首を縦に振っておけばいいだけだ」

 たいしたことではない、重く考えるなと町宮を説き伏せる。
 そんな必死な自分が笑える。俺はなにをやっているのだろう。

『最初は形だけでもいいです。芹沢さんに恋人がいないならチャンスをください。一緒に食事に行ったりして接しているうちに、仲良くなるのも無理ですか?』

 昨日の溝内さんの言葉がよみがえってきた。あのときは、形だけのカップルになんの意味もないだろう、と思ったが。
 今の俺は昨日の溝内さんとなにも変わらないじゃないか。言葉は違えど、言っていることは同じだ。
 その上、自分の気持ちを隠して偽装しようとするなんて、俺のほうがよほど意味不明だ。

 なんとか町宮の了承を取り付け、この日から俺は形式だけの“彼氏”になった。
 とりあえず彼女から拒絶はされていないのだから、これから距離を詰めていけばいい。

 溝内さんだけでなく、高木さんにもこの効果はてきめんで、町宮に対して絡んでいく回数が減って俺の思う壺だった。

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