若旦那様の溺愛は、焦れったくて、時々激しい~お見合いから始まる独占契約~
反対車線の車の流れへとちらちら目を向けていると、走り去っていくタクシーを視界に捉えた。
後部座席には蓮さんともうひとりの後ろ姿が確かに見えて、動揺が広がる。
バスが発進すれば、通りの向かい側で「お疲れ様でした」という声が響き、店に戻ったり、その場から離れ出したりと、様々に動き始めていて完全にお開きとなった様子だ。
「私たちも帰ろう」と友理奈に声をかけられ、私はぎこちなく頷く。
タクシーに相乗りしただけだと自分に言い聞かせても不安は膨らむばかりで、気が気じゃないまま駅に向かって歩き出す。
歩行者用信号が青になり、横断歩道を渡り出せば、向こう側から店の前にいた男性ふたりがやって来る。
何やら楽しげな様子で、耳を澄まさなくても話し声が聞こえてくる。
「まじかよ。ヤツシロの跡取りはてっきり千秋さんと付き合ってるんだと思ってた」
「俺もびっくりした。今日なんてずっとべったりで夫婦みたいだったし」
「お似合いだよな」
笑い声交えてそんな話をしつつ、彼らは私の隣を通り過ぎていく。
何気なく放たれた言葉の矢がぐさりと心に刺さり、抜けない。
友理奈との話がなかなか頭に入って来ないまま駅に到着し、「また明日」と手を振って別々のホームへと進んでいく。