若旦那様の溺愛は、焦れったくて、時々激しい~お見合いから始まる独占契約~


「具合はどうだ? 今夜、様子を見に行っても構わないか?」


思わず足を止めてふうっと息を吐き出してから、震える指で文字を打ち込む。


「今日は帰ります」


「話があります」と続けた文字はためらいの後に消去して、帰宅の意思だけ告げた。

すると、すぐに「わかった。気をつけて。必要なら迎えにいくから遠慮せず言ってくれ」と返ってきた彼の言葉に涙が込み上げてくる。

優しさがとっても嬉しいのに、あの夜、本社ではなくて渡瀬先輩と一緒にいたくせにと、素直に受け止められないことが苦しくてたまらない。

バッグの中にある蓮さんのネクタイに目をとめて、私は再び駅に向かって歩き出した。

駅について、到着アナウンスを耳にしてふと思い立ち、ホームに入ってきた電車に乗り込む。

それは自宅とは反対方向の電車だった。

自宅で話をしたら取り乱してしまうかもしれない。

ヤツシロの本社の近くで終わるのを待って、レストランなどひと目のある場所で話をした方が冷静さを保てるかもしれないと考えたのだ。

電車を降りて、どこで時間を潰そうかと歩き出す。

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